損害賠償請求をするなら知っておきたい「損益相殺」

「損益相殺」ということばを知っているという方、どれくらいいるでしょうか。

おそらく、ほとんどの人は損益相殺なんてことばは見たことも聞いたこともないでしょう。

ただ、損害賠償請求をするのであれば、なんとなく「こういうものがあるんだな」くらいの理解はしておいたほうが良いことばなのです。

なんとなくの理解で良いのは、損益相殺が難しく、「知らないと適切に損害賠償請求ができない」というものではないからです。

今回は、損益相殺とはどんなものなのか、損益相殺しなければならない場合とは、といったことをおおまかに説明していきます。

死亡事故によって手に入る利益は、損害賠償請求から差し引きしなければならない

じつは、死亡事故が起きると、被害者遺族は利益を手に入れます。

「死亡事故で手に入るものなんて、被害ばかりじゃないか!」と思うのは当然です。

ただ、あくまでも理論的な話として、事故が起きて人が一人亡くなった場合、遺族は「亡くなった人の今後の生活費」を払う必要がなくなり、「保険や各種の給付金」といった「加害者に対する損害賠償請求以外のお金」を受け取ることになりますよね。

損害賠償請求というのは、「事故によって受けた損失を補てんしてもらうため」に行うものです。

事故によって受けたマイナスを帳消しにできる金額のお金をプラスとしてもらうことで、お互いの損失をプラスマイナスゼロにして事故を終わらせましょう、という手続きです。

ここでちょっと考えてみましょう。

例えば、死亡事故によって遺族が「-10」の損失を受けたとします。

損害賠償請求はマイナスを帳消しにするところまで、つまり最大で「10」加害者に請求できるわけです。

ですが、遺族が自賠責保険にかけあって「加害者への損害賠償請求が終わるまえに、自賠責から3のお金を受け取っている」とどうなるでしょうか。

このまま加害者に10請求をすると、遺族は合計で「-10+3+10=3」受け取ることになりますよね。

受けた損失を補てんするだけのはずが、儲かってしまいました。これでは公平とはいえません。

被害者や被害者の遺族であっても、必要以上の利益を手に入れるのは好ましいことではないので、損害賠償請求でプラスマイナスゼロになるように、「加害者に請求する10から3を引いた7を請求する」といった調整を行う必要があるのです。

こういった数字の差し引きを「損益相殺」と呼びます。

加害者が支払うぶんが減って得をしているように感じるかもしれませんが、あとで自賠責保険が加害者に対して「被害者に支払ったぶん3損をしているから、あなたが払ってね」と請求するので問題ありません。

最終的に遺族は10もらって加害者は10負担することになるので、話はきれいにおさまります。

損益相殺の対象になるもののまとめ

それでは、「これをもらっていたら損益相殺をしなくちゃいけない」という利益について、まとめて見てみましょう。

  • 故人が加入していた任意保険から出る人身傷害補償保険金
  • 損害賠償金を受け取るまえに自賠責保険からもらったお金
  • 自賠責の不足部分をカバーするためにある、政府保障事業のお金
  • 厚生年金や国民年金、共済、労災保険などから出る、遺族年金や障害年金、療養費や葬祭費などの各種給付金
  • 高額療養費の還付金
  • 事故があって収入が途絶えたときに出る、所得補償保険の保険金

損益相殺の対象になるものは、だいたい以上です。

注意しておきたいのは、「損益相殺の対象になるかどうかは、もらうお金の種類ごとにひとつひとつ判断しなければならない」ということです。

ちなみに、故人の死亡時に出る生命保険金など、「損益相殺の対象にならない」とされているお金もたくさんあります。

損益相殺の対象になるかどうかの判断は、難しい

「このお金をもらったら、損益相殺しなきゃいけないの?」と思ったとき、できれば自分で判断するのは避けましょう。

被害者側からすれば最終的にもらえる金額が変わらないなら同じようなお金に見えても、給付金や保険金の種類によって性質や扱いが違う、なんてことが良くあるからです。

とくに、労災保険や社会保険は、「これは損益相殺の対象になる」「これは損益相殺の対象にならない」といった違いが給付金ごとにあるので、要注意です。

損益相殺がわからないときは弁護士へ!

損益相殺については、あまり突き詰めて考える必要はありません。

損益相殺をしても、被害者遺族が受けた損失=受け取ることのできるお金の最大額が「-10」というのは変わらないからです。

損益相殺について知らないと、弁護士に頼んでも「どうして請求額を下げるのか」がわからず戸惑ってしまうかもしれません。

戸惑いが不満になり、弁護士との関係が悪化すると、とれる損害賠償もとりづらくなってしまいます。

ですが、なんとなくわかっていれば、「損益相殺で見かけの金額は減っているけど、加害者の総合的な負担は変わらないんだな」と判断することができますよね。

細かい金額の計算や損益相殺になるかどうかの判断は、弁護士に任せてしまいましょう。